
介護現場でのコミュニケーションにおいて



など感じたことはありませんか?
介護の仕事は、人との関わりが中心となる専門職です。
安心して生活できる環境を整えるには、利用者の身体介助を行うだけでなくコミュニケーション力が欠かせません。
知識や技術はもちろん重要ですが、それ以上に利用者やそのご家族、そして共に働くスタッフとの円滑なコミュニケーション能力が、介護の質と働きやすさを大きく左右します。
介護職においては、冒頭のような人間関係のストレスを感じる人も少なくありません。
しかし、コツを押さえれば誰でも円滑にコミュニケーションを取ることができます。
この記事では、介護職におけるコミュニケーションの重要性と、上司・同僚・利用者それぞれと信頼を築くための具体的な方法を詳しく解説します。
Contents
介護職でコミュニケーションが大切な理由

介護現場でコミュニケーションが重要とされるのは、それ自体が安全、安心、そして質の高いケアに直結するからです。
利用者の状態は常に変化しています。
その小さな変化をいち早く察知し、適切な対応へ繋げることが重要です。
介護職にコミュニケーション力が必要な理由を知る
介護職が利用者の生活全般をサポートする上で、コミュニケーションは以下の3つの役割を果たします。
- 情報収集とアセスメント: ご利用者の表情、言葉のトーン、身体の動きなど、非言語的な情報も含めて状態を把握し、個別ケア計画の立案に役立てます。
- 信頼関係の構築: 安心感のある関わりを通じて信頼を得ることで、利用者が本音やニーズを話しやすくなり、より深く、パーソナライズされたケアを提供できます。
- トラブルの予防と早期対応: 些細な変化や不満を言葉にしてもらうことで、事故や大きなトラブルを未然に防ぐ「予防線」の役割を果たします。
介護はチームで行う仕事です。
看護師やケアマネージャー、ご家族など、関係者が多いほど連携の質が成果に直結します。
つまりコミュニケーション力は、介護の質そのものを高めるための土台なのです。
連携が利用者の安心に繋がることを意識する
介護はチームで行う仕事であり、情報共有の漏れは利用者の安全に影響を及ぼします。
申し送りの伝達ミスがあるとインシデントや事故のリスクが高まります。
例えば「食事の摂取量が少ない」「昨晩、寝付きが悪かった」といった情報は、担当者間でしっかりと共有されて初めて次の対応(食事量の調整、日中の活動量の見直しなど)に活かされます。
「言ったつもり」ではなく「伝わったかどうか」を意識することを心がけましょう。
また、スタッフ間の連携がスムーズで正確であることは「この施設(事業所)は利用者一人ひとりのことをきちんと把握してくれている」という安心感にも繋がります。
利用者は、担当者が変わっても自分の状況が正確に引き継がれていることを肌で感じることで、不安なくサービスを利用できるようになります。
ご家族にとってもこまめに情報を共有してもらえることで、安心と信頼を感じることが出来ます。
言葉と態度で信頼を築くことを意識する
高齢者の方々にとって、介護スタッフの言葉遣いや態度は非常に敏感に感じられるものです。
忙しさからくる焦りや、心に余裕がない状態でのぞんざいな一言、あるいは無関心な態度などは、利用者に「自分は大切にされていない」「機械的だ」という印象を与え、一瞬で信頼関係を崩してしまう可能性があります。
特に認知症のある方はそうした感情や態度に敏感なため、声掛けや対応方法一つで反応が大きく変わる場合があります。
信頼とは、日々の小さな配慮の積み重ねによって築かれるものです。
「おはようございます」という挨拶一つとっても、目を合わせて、笑顔で、穏やかなトーンで伝えることが大切です。
利用者は、あなたの発する非言語的なメッセージ(表情や態度)から、あなたの人柄やプロ意識を判断していることを認識しましょう。
上司・同僚とのコミュニケーションのコツ

利用者へのケアを円滑に進めるためには、職場の人間関係、特に上司や同僚との連携が欠かせません。
意見の違いが出ることもありますが、伝え方を工夫すればトラブルを防ぎ、信頼を強めることができます。
ここでは、チーム内で円滑にやり取りするための実践的なコツを紹介します。
報連相を丁寧に行う
報連相(報告・連絡・相談)は、チームケアの基本中の基本です。
利用者の体調変化、転倒、食事量の変化など、どんな小さなことでも共有することが重要です。
「こんなことを言うほどでもない」と思う内容ほど、後で大きなトラブルを防ぐヒントになります。
報連相の際に心がけたい注意点は以下の通りです。
- 報告: 事実を客観的に、結論から簡潔に伝えます。利用者の変化や事故につながりかねない事象は時間軸に沿って具体的に報告し、必ず対応した内容と結果まで含めるようにします。「○○という状況で、私は××という対応をしました」という形式を意識します。
- 連絡: 共有事項は、関係者全員に迅速かつ正確に伝達します。口頭だけでなく、申し送りノートやシステムなど、組織で定めたルールに従って記録を残します。シフトの状況次第で出勤までの期間が空いてしまうと申し送りがきちんと伝わっていなかったり、情報を見落としていたりする場合もあります。「知っているだろう」と思わず「先日○○について変更(変化)があったのですが聞きましたか?」などお互いこまめに確認する姿勢も大事です。
- 相談: 判断に迷うこと、自分一人で解決できないことは、遠慮なく上司や先輩に相談します。相談の際には、「現在の状況」「困っている点」「自分なりに考えた解決策(案)」の3点をまとめて伝えることで、的確なアドバイスを得やすくなります。自分が先輩の立場であるなら「いつでも相談してね」と日頃から伝えておくことも大事です。
感情的にならず冷静に伝える
多忙な介護現場では、ストレスや疲労から感情的になりやすい場面もあります。
忙しい時ほど尚更です。
しかしその際に感情的になってしまうと、相手に意図が伝わらないまま関係がこじれる原因になります。
また必要な情報も伝わらなくなってしまう場合もあります。
同僚や上司に意見を伝える際は「あなた(相手)」を主語にするのではなく、「私(自分)」を主語にすることを意識します。
「あなたのやり方は間違っている」ではなく「“私は”この方法ではリスクがあると感じます」といったI(アイ)メッセージを使うことで、相手を責めることなく、自分の考えや懸念を冷静に伝えることができます。
相手の立場を理解して意見を伝える
意見の食い違いが生じた際や、改善提案をする際は、まず相手の立場や考えを理解しようと努めることが大切です。
例えば、フロアリーダーは現場の忙しさから効率を重視するかもしれませんし、新人スタッフはマニュアル通りの手順を重視するかもしれません。
介護現場では職員同士の価値観がぶつかりやすいため注意が必要です。
職場での人間関係の悩み・解決策については以下の記事でも詳しく解説していますので、こちらも参考にしてみて下さい。
自分の意見を伝える前には「○○については承知の上で...」「お忙しいところ恐縮ですが...」といったクッション言葉を使い、相手への敬意を示すことから始めます。
その上で、感情ではなく具体的な根拠に基づいて「利用者の安全」に照らし合わせた意見を述べるようにしましょう。
利用者とのコミュニケーションのコツ

利用者との関係づくりは、介護職のやりがいにも直結します。
利用者が心を開き、安心してサービスを利用できるように、受容と共感の姿勢を基本とした関わりを徹底します。
笑顔とアイコンタクトを意識する
利用者が最初に受け取る情報は、言葉よりもあなたの表情や態度です。
特に、加齢に伴い聴力が衰えたり、認知機能が低下したりしている方にとって、目から入る情報は安心感を得るための重要な要素となります。
常に口角を上げ、穏やかで安心感のある表情を心がけます。
マスクをしていても、目元で笑顔が伝わるように意識します。
話しかける時、話を聴く時は、必ず目線を合わせるようにします。
目線を合わせることで「あなたの話を真剣に聴いています」というメッセージが伝わり、信頼感が高まります。
ただし威圧感を与えないよう、優しく穏やかな視線を保つことが大切です。
また車椅子の方やベッド上の利用者とは、目線の高さを合わせるために少し腰を落とすといった配慮も心がけましょう。
相手のペースに合わせる
高齢になると、情報を処理したり、言葉を選んで発したりするのに時間がかかるようになることがあります。
焦って話を遮ったり早口で畳み掛けたりすることは、利用者の不安を増大させ「話しても無駄だ」と心を閉ざしてしまう原因になります。
忙しい時でも落ち着いて、相手のペースに合わせて話すことを意識しましょう。
また相手に尋ねる時は一度に複数のことを質問せず、「はい」か「いいえ」で答えられるような簡単な質問から入るなど、相手が答えやすいように工夫します。
否定せずに気持ちを受け止める
利用者の中には、不安や不満、あるいは認知症による現実とは異なる訴え(BPSDなど)をする方もいます。
このような時、事実に基づいて「それは違います」「そんなことはありません」と正面から否定すると、利用者の尊厳を傷つけ、信頼関係を大きく損なってしまう可能性があります。
ここで大切なのは「傾聴」と「受容」の姿勢です。
まずは「そう感じられたのですね」「それはつらかったですね」と相手の気持ちに寄り添い、感情をそのまま受け止めます。
これは訴えの内容を肯定することではなく「あなたの気持ちは理解しましたよ」というメッセージを伝えるということです。
気持ちを受け止めた上で、必要に応じて「少し落ち着いてから、もう一度お話を聞かせていただけますか」といった形で、穏やかに対応を促します。
介護現場で信頼関係を築くための工夫

信頼関係は一気に築かれるものではなく、日々の細かな接し方や、プロとしての誠実な姿勢によって徐々に育まれていくものです。
ここでは、現場で長く信頼されるための工夫を紹介していきます。
日常の小さな声かけを大切にする
利用者にとって、自分の存在が認められていると感じることは、QOL(生活の質)を高める上で非常に重要です。
「おはようございます」「今日の調子はいかがですか?」といった基本的な挨拶はもちろんですが、個人の変化に気づいた上での声かけは特に心に響きます。
例えば
- 「いつも素敵な柄のお洋服ですね」
- 「今日の髪型、いつもよりすっきりしていますね」
- 「最近、お食事がしっかり摂れているようで安心しました」
などパーソナルな部分に触れることで、「自分を見てくれている」という安心感が生まれ、信頼のベースが築かれます。
声かけはケアのついでではなく、意図的に、心を込めて行うように意識しましょう。
ミスを隠さず素直に報告する
介護の仕事においてミスをすることは誰にでもあり得ます。
しかしそのミスを隠したり、言い訳をしたりしてしまうと、かえって信頼を大きく損なう危険性があります。
用者に対してはもちろん、上司や同僚に対しても「申し訳ありません。次はこのように改善します」と誠実に伝える方が信頼が高まります。
また他の人がミスをしたときも、それを責めるのではなく「一緒に原因を考えましょう」という姿勢を取り、同じミスが繰り返されないための改善策を整えるようにすると、職場の雰囲気が前向きになります。
万が一ミスが発生した場合、大切なのは以下の3点です。
- 速やかに報告する: ミスを発見したら、事実を正確に、すぐに上司に報告します。
- 事実を客観的に伝える: 感情を交えず「いつ」「どこで」「誰に」「何を」したのかを明確に伝えます。
- 再発防止策を提案する: 「なぜミスが起こったのか」を分析し、「今後はどのように防ぐか」という具体的な対策を考え、提案します。
ミスを素直に認め真摯に対応する姿勢こそが、結果として「この人なら任せられる」という本物の信頼に繋がるのです。
相手を尊重する姿勢を持ち続ける
介護職は、利用者の生活そのものに深く関わる仕事です。
介護職において最も大切なのは「相手への敬意」です。
利用者も同僚も、年齢や経験、考え方が異なります。
その違いを受け入れ「この人にはこの人の想いがある」と理解する姿勢が大切です。
援助側としては、つい「私がやってあげよう」という想いが強くなりがちです。
しかしそうではなく、利用者一人ひとりが歩んできた人生、持っている価値観、そして自分で決めたいという意思(自己決定権)を尊重する姿勢こそが最も重要です。
具体的な注意点は以下の通りです。
- プライバシーの尊重: 着替えや排泄の介助時など、常にプライバシーに配慮し、丁寧な声掛けをしつつ不必要な露出を避けます。
- 選択肢の提示: できる範囲で「どちらにされますか?」「どのようにしたいですか?」と利用者に選択の機会を提供します。
- 丁寧な言葉遣い: どんなに親しくなっても、タメ口や馴れ馴れしい態度は避けましょう。人生の先輩であることを意識し、敬意を払って接します。
まとめ:信頼を築くには相手を理解しよう

介護職のコミュニケーションの根底にあるのは「相手を理解しようとする心」と、それを表現するための「伝え方と接し方」です。
利用者、同僚、上司、それぞれの違いを認め、相手の視点に立って接する姿勢が不可欠です。
介護職の信頼は、技術ではなく「姿勢」と「日々の積み重ね」によって築かれます。
挨拶、報連相、共感といった小さな誠実な行動が、安心して働ける職場環境と利用者が安心して過ごせる空間を作ります。
常に「相手に寄り添う姿勢」を実践し続けることが、介護職としての大きなやりがいと自信に繋がるでしょう。

